投票価値の不平等による歪み

 今年7月の参院選挙の選挙区選挙について、投票日の翌日に投票価値の不平等を主張した選挙無効訴訟を提訴しています。(7月12日のブログ

 広島高裁岡山支部の判決を皮切りに各地の高等裁判所・支部で判決が出始めました。

 札幌高裁の判決は11月2日です。

 

 投票価値の不平等による歪みの一つの例として、上記のブログ記事で次のことを指摘しました。

 

 

 福井県選挙区の当選者の獲得票数は、217,304票でした。

 北海道選挙区の次点(落選者)の獲得票数は、482,688票でした。その次の落選者は239,564票でした。

 福井の1票に比べて最も投票価値の軽い埼玉県選挙区では、次点486,778票、その次228,472票でした。

 

 投票した有権者数が少ない者が当選し、多い者が落選しています。

 

 

 

 上記の指摘のように、他の選挙区についても見ると、

東京都選挙区(改選数6)の次点469,314票、次が310,133、さらに次が257,036票でした。

沖縄県選挙区(改選数1)だと、次点は当時の沖縄北方相の現職大臣ですが、249,955票でした。

 

 もちろん、選挙区ごとに改選数や立候補者数、有権者の投票率も異なりますので、当落ラインはそれぞれで異なるでしょうから、単純比較が直ちに正しいわけではないでしょう。

 しかし、福井県の倍以上の支持を得た北海道の次点の候補者や東京都の候補者が落選している大きな原因は、

選挙区の投票価値の不平等が大きいでしょう。

 このような当落の結果になるような投票価値の不平等のある現在の選挙区割り・選挙制度の具体的な合理性については、これまでの選挙無効訴訟の判決の理由でも被告(選挙管理委員会。実質的には国)の主張でも何ら示されていません。つまり、得票数の多い候補者が落ちて少ない候補者が当選している現状を正当化する具体的な説明は誰もしていないのです。

 

 説明のつかない不合理な選挙区割り・選挙制度について、これから出される判決では選挙無効判決を下して断罪してもらいたいものです。

 

 

逮捕の必要

 前回のブログで取り上げたニュースの事案は、自分が被告人の刑事裁判の証拠を自分のブログに掲載したというものでした。その掲載した者を逮捕したということです。

 このような逮捕は問題だと思います。

 

 そもそも逮捕というのは、人を罰するためのものではなく、罪を犯した疑いという逮捕の理由と、証拠隠滅や逃亡のおそれという逮捕の必要がある場合に許される手続です。

 

 今回の件ですと、ブログで証拠資料の公開をしたという行為が刑事訴訟法違反の犯罪になるということですので、その行為を直接裏付ける証拠は警察において収集済みでしょうし、自分のブログで公開しているような者が逃亡するのかというのも疑問です。

 

 逮捕やそれに続く勾留は、警察による処罰の先行だったり、供述調書という捜査側の作文に署名をさせるために利用されている感が強いです。

 逮捕状を発付する裁判官が、身柄拘束というその人の生活・人生に重大な影響を及ぼす処分にもっと慎重に判断しなければならないでしょう。有罪の判決を受けていないのですから、有罪を推定して厳しい扱いをするような実情は不当だと思います。

 

 

 【H28.3.1に札幌に移りました。】

〒060-0003 札幌市中央区北3西7 1-1 SAKURA-N3

北海道コンテンツ法律事務所

電話070-5530-0884

弁護士 林 朋寛

(札幌弁護士会所属)

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ブログ http://bit.ly/2eOFTn8

 

 

 


刑事訴訟法違反(開示証拠の目的外使用)の罪について

 北海道警の札幌南署が、自分が被告人となっている刑事事件(暴行)の裁判での証拠書類をブログに掲載したことが刑事訴訟法違反(目的外使用の罪)にあたるとして、その被告人を逮捕したとのことです。

 

 

 刑事裁判の手続を定めた法律である刑事訴訟法では、被告人や弁護人、これらの者であった者は、被告人となった裁判の準備等の目的以外に開示された証拠のコピーを他人に渡したり、ネットにアップしたりすることが禁じられており、違反すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金の犯罪に該当します。(条文は長いので、下にあげておきます。)被告人・弁護人であった者も対象ですから、裁判が終わった後も禁止されていることになります。

 

 この禁止の趣旨は、開示証拠がきちんと管理されてないと、証拠隠滅や関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるし、そのおそれを考慮すると証拠開示が限定されてしまうというものとされています。

 

 

 この禁止については、日弁連の会長声明で反対が表明されています

 

 私もこの刑訴法の禁止規定は反対で、すみやかな改正が望まれます。

 今回のニュースとなったように、被告人にも言い分があり、その見解を表明するのは、表現の自由として保障されるべきです。

 関係者の名誉毀損やプライバシー侵害については、開示証拠に限らず、刑事責任あるいは民事責任を問われることになりかねないものとされていますから、開示証拠に関して一般的抽象的に規制する合理性はないと思います。

 被告人の表現の自由の他に、報道機関としては、取材活動の自由の制限も問題となります。刑事事件の証拠資料という取材の資料を得るのを制限されることになるからです。そして、取材活動が制約されることで国民の知る権利も、反面として制約されると考えられます。

 警察・検察の捜査や公判活動も裁判所の裁判も国家権力の作用の一つです。どのような証拠資料に基づいて裁判がなされているのかを証拠資料に基づいて批判・検証する機会が奪われていることになります。

 もっともらしい禁止の理由(関係者のプライバシー保護など)を付けて、警察・検察あるいは裁判所に対する国民のチェックを免れるような規定は法改正で正されるべきです。

 

 

刑事訴訟法
第二百八十一条の四  被告人若しくは弁護人(第四百四十条に規定する弁護人を含む。)又はこれらであつた者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
 当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理 
 当該被告事件に関する次に掲げる手続
 イ 第一編第十六章の規定による費用の補償の手続
 ロ 第三百四十九条第一項の請求があつた場合の手続
 ハ 第三百五十条の請求があつた場合の手続
 ニ 上訴権回復の請求の手続
 ホ 再審の請求の手続
 ヘ 非常上告の手続
 ト 第五百条第一項の申立ての手続
 チ 第五百二条の申立ての手続
 リ 刑事補償法 の規定による補償の請求の手続

 

 前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。 
第二百八十一条の五  被告人又は被告人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、前条第一項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 弁護人(第四百四十条に規定する弁護人を含む。以下この項において同じ。)又は弁護人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。 

 

 

 

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年金の支払いを拒否するか

 弁護士ドットコムニュースで、国民年金保険料の強制徴収の対象が、2017年度から年間所得「350万円以上」から「300万円以上」に広がることになった件で、コメントした記事が公開されました。

 

年金保険料の強制徴収「年収300万以上」に範囲拡大へ…どんな場合に対象になる?

 

 この記事の中では、

・年金が加入している者のための制度であるとすれば、国は、年金を支払うことのメリットをしっかりと証明すべき

・年金制度が破綻するとか、今のうちに支払った分の年金は将来もらえないとかの点の疑いを晴らすべき

・国民年金の積立金等を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、株価維持のために株式投資を増やしているとか、5兆円を超える運用損を出していると指摘された点について、問題ないことを明確にすべき

というコメントをしています。

 国は説明・証明すべきだとは思いますが、たぶんできないのでしょう(できるのなら既にやっているはず。)。

 無責任に他社のサイトで年金制度は破綻してますと断定したり、年金保険料の不払いを煽るわけにもいかないので、そこまでは言っていませんでした。

 

 

 年金制度が現在の40歳代〜若い世代によって、長期的に経済的なメリットがない制度だとして、不払いしていいかというと、それも困難な途です。

 年金保険料の不払いをして滞納処分(財産の差押え)を食らい、敗訴覚悟で裁判で争うというのも、自分ではまだ採れる方法ではないですし、他人にも弁護士としてはオススメし難いものです。

 もし、弁護士費用倒れになってもいいから年金制度の破綻・不合理を司法の場でも明らかにしたいという方がいれば、その際もよくよく打ち合わせをしないといけないでしょう。

 

 

 将来の自分の生活について年金の強制加入で介入されるのはそもそも幸福追求権(憲法13条)の侵害だとか、

高齢者の生活を支えるだけのような不合理な年金制度は思想良心の自由(憲法19条)の侵害とか、厚生年金と国民年金の制度は不合理な差別(憲法14条)だとか、財産を不合理に奪われて財産権(憲法29条)の侵害だとか、の憲法上の主張も考えられます。しかし、年金制度が破綻・不合理で憲法違反だということのできる裁判官がいるとはまだ期待できないでしょう。

 

 

 結局のところ、国の制度、政府・政治には期待できないので、

自分の将来の経済的なことは自分で固めておかないといけない状況なんだと思います。

 言うは易いのですが、実行できているかというと全くおぼつかないのが問題です…。

 

 

 

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内閣の衆議院解散権

 官房長官が、「解散は首相の専権事項だ。首相自身が一番タイミングがいい時に考える。」と発言したそうです。

 この発言内容は、大きな誤りが二つあります。

 

 

 まず、衆議院の解散権があるとすれば、首相(内閣総理大臣)にあるのではなく、内閣にあります。

 衆議院の解散は、憲法上で明文で定められているのは、内閣不信任案が可決された場合です。

 

 

第六十九条  内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
 衆議院の解散は、国事行為として天皇が内閣の助言と承認に基づいて行います。
第七条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
     衆議院を解散すること。 

 

 内閣不信任案が可決された場合ではないのに衆議院の解散を認めるのは、内閣の助言と承認に実質的な決定権を認めて、現在では内閣に実質的な解散権が慣行上認められているからです。

 

 そして、その解散権は、内閣総理大臣ではなくて「助言と承認」を行う内閣に認められる権能です。

 内閣は、行政権を持つ合議制の機関です。

 

第六十五条  行政権は、内閣に属する。

 

 

第六十六条  内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
ただ、内閣総理大臣には、任意に国務大臣を罷免する権原がありますから、衆議院の解散に反対する大臣がいれば辞めさせることができます。
第六十八条  
 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。 
 反対する大臣を罷免できるから、首相に解散権があると言ってしまったり、首相に自由な解散権があると思い込んでしまうのは誤りです。
 解散権を行使するのは、内閣ですから、その合議を経て解散の是非を検討しなければならないはずですし、理由あって反対する大臣を罷免するプロセスには大きな政治的な意味が生じます(罷免に関しても総選挙等で問題になり得るでしょう。)。
 次に、首相が1番いいタイミングで解散できるという思い上がりが問題です。
 解散は、全国民の代表である衆議院議員全員の身分を奪い、国会を閉会して、総選挙を実施することになりますから、国民生活や政治に大きな影響のある行為であって軽々に行ってよいものではありません。
 首相の個人的な都合や与党に選挙が有利といったような思惑でする解散は不当であって、そのようなことを認めるような発言・態度は厳しく批判されるべきです。
 なお、現行の衆議院の小選挙区の区割は、憲法上の投票価値の平等の要請に反する状態です(最高裁判所平成27年11月25日判決)。この是正をしないまま、解散して総選挙を行うというのは、主権者国民の選挙権の価値を蔑ろにした無責任なものというべきです。
 その是正ができないまま選挙することになったのであれば、国会の無能を証明したものといえるでしょう。
 本来は、その無能の責任を取って、与野党の幹部、特に多数派を形成していた与党の幹部は政界引退すべき事態なんだと私は思います。

 

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